2007年12月10日

失せもの一代記

これは、一人の男と自転車の鍵とマンゴーオレの壮大な(自作自演)一代記である。そして出オチ、である。

17時10分、男は定年坂を下っていた。18時からのバイトのため、いつもより一足先に研究室を後にしたのだ。手には自転車の鍵。購入してから1年半、ともに静岡の地を駆け抜けてきた相棒である。今日もそいつにまたがり、家路を急ぐはずだった。だが、ふとした瞬間、自転車の鍵を落としてしまった。チャリンと確かに落下したことを告げる相棒の悲鳴を耳にする。咄嗟に辺りに目をやる。しかし今は12月、17時でもかなり薄暗い。加えて先ほどまで室内にいたため暗闇に目が慣れていない。またバイトの存在が男から冷静さを奪っていた。不覚だった。すぐそばに落ちているはずなのに、男は自転車の鍵を見つけることができず、バイトが終わったら探しにこようとその場を後にし、どれほどぶりであろうか、徒歩での家路についた。

バイトが終わると、とりあえず購入してきたハンバーガー二個を食す。片方のハンバーガーの上部分を食べ、もう片方の下部分を食べ、それをおもむろに重ねる。そうダブルバーガーである。男はダブルバーガーが好物だった。いまやマクドナルドからはその存在はなくなっているが、ダブルチーズバーガーチーズ抜きを頼むくらい好物だった。うん、うまい。「モノを食べる時はね誰にも邪魔されず自由で なんというか救われてなきゃダメなんだ」そのフレーズが今のこの状況にはピッタリだな、と男は思った。ダブルバーガーならぬダブルハンバーガーを食した後、男は懐中電灯に電池が入っていることを確かめて大学へ向かった。

22時30分ころ、定年坂、鍵を落とした付近に到着した。さすがにこの時間では人気がない。懐中電灯片手にうろうろしている不審者がいたとしても通報される心配はなさそうだった。夕方にはよく探せなかった排水溝を見る。2分くらい見ていたが、うん、無理。ここに落ちていたとしたらもう探せそうにない。諦めてほかの部分を探す。探し始めて5分ほどたったであろうか。結局見つけられず諦めて帰ることにした。幸い自転車の鍵にはスペアキーがある。明日からそちらを使えばいいだろう。最後に好物のアクアブルガリアでも飲んでから帰るかと、第一食堂前の自販機に行く。しかし、アクアブルガリアは売り切れていた。ここでも井の頭五郎が思い浮かんだが、しかしそのシーンはよく覚えていなかった。仕方ないのでマンゴーオレを買って帰ることにした。マンゴーオレの予想以上に突き抜ける甘さに若干不快感を抱きながら坂を下っていると、ん、なんか落ちてる、それは今まで探していた、男の相棒だった。簡単な話、落としたと思って探していた場所よりもう少し下ったところに落ちていた。それだけの話だった。夏に伏見稲荷大社でひいたおみくじには「うせもの よういにでがたし」とあったが、確かに容易に出がたかったような、思ったよりすぐ出てきたような。なんにせよ、よかった。そして内心胸躍らせつつ、横目で後輩の在宅を確認し、自転車での家路についたのだった。

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